続編(の一つ)第一話

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440Hzお買い上げありがとうございます。

現状の市場から見るとそんなに安くもない部類ですが、必ず値段以上の価値を感じてもらえると思っています。

いろいろな考えがあるとは思いますが、本作品については今後も安くしたり無料キャンペーンを行う予定はありません。

未読の方には、無料サンプルだけでもご覧いただけると嬉しいです。

今回は440Hzの続編についてご紹介したいと思います。
いくつかエピソードがあるのですが、そのうちのひとつだけさわりを。
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■第一話■「足りないもの」

「ちゃう。そうじゃない。」

 今日だけでもこの言葉を何回吐いたのだろう。気分が悪い。
 4畳半の安アパートの中で、男二人がパイプ椅子に座ってギターを弾いている光景自体も物悲しい。

 他人に物を教えるのは俺には向いていない。そんな事はわかっていたが、親友の頼みを無下(むげ)にはできない。
 『おまえにしか頼めない、おまえだから出来るんだ』という台詞(せりふ)が、かなり沁みたからだ。
 今思えば、乗せられただけかもしれない。あいつはそういう男だ。しかし、いったん約束した以上はやらなければいけない。
 さて、できれば褒めて、前向きに伸ばしてやりたい気持ちはあるが、それ以前の問題だ。こいつには何かが足りない。
 クラッシック・ギターで多少は基礎を固めているし、自宅ではマジメにメトロノームを使って練習しているせいか、リズム感については俺よりもセンスがあるだろう。なんだよアフター・ビートって。そしてすべてにおいて飲み込みも早い。
 そんな背景の中で「そうじゃない」というセリフを繰り返しても、俺自身にその答えが見つからない。そして、こいつは遠慮して追求しないが、常に明確な「解」を欲している。それがさらに自分自身を苛立たせているのだろう。

「・・・とりあえず休憩にするか。」
「はい・・・。」

 俺にダメだしばかりされたせいで、消沈している。これだからガキは嫌いだ。めんどくせえ。
 このガキの通称は「ハリー」。苗字は「ハルノ」だったはずだ。
 なんだかドイツ文学の主人公が由来とか聞いた気がするが、そんなもん知ったこっちゃねえ。俺の部屋には文庫本どころか教科書すらない。
 俺はスタンドに愛用のストラトを置き、椅子を座りなおす。ライダース・ジャケットのポケットからハイライトを取り出し、口にくわえると、ハリーがすかさず自分のライターで着火してくれる。目上の人間に対しての礼儀として極自然な所作だし、自分にしてみても決して気分は悪くない。だが、なにか違和感があった。客観的にはこいつの姿が学生服に包まれたものから感じるものだったからかもしれないが、俺はそれを見慣れている。おそらく抱いた違和感は、ソツのなさから来たものだろう。俺が一口吸って煙を吐くのを確認すると、自分も煙草を取り出し火を着ける。どこか卑屈さや甘えを感じる。十六歳のガキに多くを求めても仕方がない。だが、こいつには「何かが足りない」と同時に「何かを持っている」と感じさせられるのだ。キサラギはそれを俺に埋めさせようとしているのかもしれない。単なる勘だ。頭のいいやつの考えなどわからない。
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このエピソードは前回以上にばんばん専門用語が出てくる予定です。
逆に他のエピソードでは一切ギターが出てこないものもあります。とはいえ全部「440Hz」につながってくるのですが。